不思議なものです、 繰り返す唄声に嫌気が差そうとしたかと思うと、
その橋下駄にわずかに爪先を乗せようと、
身を乗り出してしまいそうかと思うと、
隙間の水面に映った形相には、
切り取ったばかりの欠けらが散っているようで。

産まれたことも生まれ直すことも忘れた頃には、
擦り切れた靴底の痛みだけが刺すようでした。

繰り出すことしかできない言葉が死んでいこうかと思うと、
その吊革にわずかに首口を載せようかと、
瞳を最後に閉じかけてしまいそうかと思うと、
眼球の底沼に南光る哀しみには、
掬い上げる温度をした手の平が射しているようで、

産んだことも生きて治ることも忘れたい時でも、
磨き研がれる前の結晶が未然の頂に立て掛けられたようです。

誰なのですか、
ここに来てまで手を振り千切っているのは、

わたしなのですか、
砕かれず頑なに壊れないとしているのは、



どの世に発っても、
あの日に旅を降りることはないと誓い、
いつでも切符を買い、いつでも電車に揺られ、
どこの国の最終駅に着いたとしても、
振り向けばあなたへの旅を続けることに変わりはなく、
荷物を背負い上げてまた、歩き出したのは。

もし、あの時、

決して。

産まれたことも生まれ直すことも、
拒み続けた袋の紐を解きかけた時のようでした、

あなたの声が聞こえました、
聞き慣れたはずの声でしたが見知らぬ人のようでした、

新しくまた新しくあなたに出会えた旅が、
振り向かずわたしの前に連なっているのが見えました、

美しく運んでくれた瞳わたしの瞳に。















 by   mito-rino  2011 / 11/ 21 /