何もなかったように

私の向かう穏やかな水面の
指を滑らす秋風を逸らし

私の歩く密やかな湖畔の
真顔に照らす木立ちが瞬き

軽々と持ち上げられてしまう私の
気分を転じていく兆しの甘く

ゆっくりと温められていく私の
胸底に降り積もる雪は静かに

凍わしていこうとする目的の
私の生きた身体が断じていこうとする

私が建てて通り抜けられぬ高壁の
柱を揺らしてくれる人は

何処

私が今死んでもあの鳥は行き着く南の
孤島に佇むあの人の見る空の元へと

飛び続けていく

羽ばたきを止めない

飛び続けていく

何もなかったように

何もなかったように

・・・・・・・・・・



僕の渋りきったはがゆい勇気だった
一羽の鳥が凛と乾いた空に姿を消した

私の張り詰めた喉から立てた声だった
放った矢はあなたの声まで届かずに

折れた矢をもう一度放ってみようとし
勇気を出して拾い上げてみたその矢は

私の力の及ばない世界で一番綺麗で
一番強い何者かに奪い去られた跡だった

僕のみつけたその矢はほかでもなく一本の
僕が身を離したこの世の輝きを放ち芳つ

燃え残してしまった
行方を探さなかった
傾けると零れ落ちた


僕の愛情だった

別れの言葉を伝えきるまでに

美しい虹が消えていった

環を描いて消えていった

消えていった
















 by   mito-rino  2011 / 11/ 09 /